けんしろうの日常

母の命、母の死。そして僕の覚悟。

2016/06/17

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ある日、父から電話で連絡があった。

「MRI撮ったら、母さんの脳に異常が見つかった。」

僕はあまりのショックに声が出なかった。

父に何度も大丈夫か?と聞かれ、やっと一言喋った。

「そう…で、母の状況は?」

「今のところは元気だよ。でもやっぱショックみたい。」

落ち着いた僕は、母の状況を詳しく聞いた。

母の病名は、未破裂脳動脈瘤。

未破裂脳動脈瘤とは?

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脳の中ー小動脈(径1~6 mm)にできる風船のようなふくらみを脳動脈瘤といいます。このよう瘤のできる理由は明確とはなっておりませんが、高血圧や血流分布の異常などの血管壁へのストレスや喫煙、遺伝などによる動脈壁の脆弱性に関連すると考えられています。成人の2~6%(100人に数人)にこのような瘤が発見され、たまたま脳のMRIやCT検査をうけたり、脳ドックをうけたりして見つかる場合がほとんどです。中には未破裂脳動脈瘤が大きくなって脳の神経を圧迫しその障害を生じてみつかる場合もあります。(中略) 大きさは径2mm程度の小さなものから25mm以上の大きなものまでできますが、75%以上は10mm未満の大きさです。
引用 https://square.umin.ac.jp/neuroinf/medical/102.html

図のように、脳の血管に瘤(コブ)が出来てしまう病気らしい。

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治療としては、開頭してコブをクリップで止め、破裂しないようにする方法が多いらしい。

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そのためには母の頭にメスを入れなくてはならない。

鹿児島では難しい手術だから熊本の病院へ。

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すぐに同席について電話で母に確認した所、父と母の同意だけでは手術をするのは難しいらしく、このまま進めれば親族から「そんな話は聞いていない」と訴えられる可能性が出てくる。そのためお子さんの同席をお願いしたいという内容だった。

僕は長男。だから僕が行くのが妥当だろうと思い、急いで会社に事情を説明。
6/17金曜日、熊本に飛んだ。

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熊本に父と母が迎えに来た。

母は表情こそ元気だったけど、どこか覇気がない。父も。

僕らはそのまま病院へ。

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病院の重苦しい雰囲気に、緊張が走る。

父と母、僕の3人は診察の受付を済ませ、診察の順番まで長い長い時間を過ごす。

その間僕らは殆ど会話が出来なかった。

そして診察へ。

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医師「息子さん、わざわざお越しいただきありがとうございます。これから手術の内容について説明します。」

医師としては手術をしたほうがいいという立場。

僕は心を落ち着かせ、医師の説明を聞いた。

未破裂脳動脈瘤の破裂確率は1%。母は3%。

母が患っている未破裂脳動脈瘤は、今後破裂する確率は100人に1人の確率。1%らしい。

逆に言えば99人は破裂せず天寿を全うする。

母の脳には3箇所、未破裂脳動脈瘤があった。

1%の動脈瘤が3つ。医師いわく3%らしい。

そのうち2つは手術可能、1つは手術不可能だった。

いずれにせよ手術をしても1%の危険が残ったままになる。

薬の治療は不可能。

開頭手術で回復する可能性が高い。しかし合併症の確率4%

この動脈瘤を今後破裂させないためには、開頭手術しかない。

開頭手術の場合、頭の毛をすべて剃る必要はないけど、頭蓋骨を外し、脳を直接いじる必要がある。

当然この手術自体にも危険があり、4%の確率で何らかの後遺症、うち1%は寝たきりや障害が残る可能性があるということだった。

身近な回復例

医師の父親も未破裂脳動脈瘤だったらしい。

幸い母のように手術ができないところには脳動脈瘤がなく、2箇所だったため手術は順調に進み、合併症もなかった。

今も健康に生きているらしい。

手術をすべきか、しないべきか?

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手術をしなければ、そのうち破裂するかもしれない。3%の確率で。
開頭手術すれば3%が1%になる。しかし4%の確率で合併症が起きる。

医師としては手術を進めたいらしい。父も母も決断に迷っているようだった。

「手術されますか?」

その一言に、僕は1つ深呼吸をし、ゆっくりと話した。

重苦しい雰囲気の中、口を開いたのは僕だった。

「先生、母にメスは入れさせません。」
「どれを選んでもリスクがあるなら、もっともリスクが低い経過観察を選びます。」

開頭手術すれば4%の確率で障害が残る。それなら死ぬまで破裂しない97%にかけようと思った。

このまま医師の言うとおりに進めれば、4%の合併症という危険な道に進むかもしれない。

父も母も、お人好しで優柔不断なところがある。肝心なことを決められない。
だから、長男である僕が判断した。

僕の言葉のあと、

重苦しい空気が流れた。

医師は僕の顔をしっかりみて、一言。

「それが一番いいでしょう」

重苦しい診察室の雰囲気は、離散した。

本音は手術をおすすめ出来なかった。

その後医師が話してくれた。

母親の未破裂脳動脈瘤は最大でも3.8mm。手術を決断しなくてはならない大きさは4mm。
4mm以下の場合、死ぬまでに破裂する確率は0.04%。非常に低い確率である。

全部合わせても0.12%。
でも医師は1%と説明した。なぜか?

医師が経過観察ではなく手術を勧めたのは、問題がわかったうえで何も処置をしないという決断が立場上出来ないから。

経過観察中に万が一破裂した場合、「何も処置をしなかった」として医師の責任問題になりやすい。だから医師の気持ちとしては5分5分だった。

手術をしたほうがいいとも、しなくてもいいとも言える難しい状況。だからこそ父と母だけでなく僕の判断が重要だったようだ。思いの外大役だった。

そんな中、僕がキッパリと手術をしないと宣言した。
それで医師としても踏ん切りがついたそうだ。

僕から「これ以上大きくなるようでしたら手術をしましょう」と提案し、
「では半年後にMRIをとりましょう」と医師。

もし半年後のMRIで動脈瘤が4mm以上になっていたら手術をしよう。

それだけを決め半年後のMRIを予約し、病院を後にした。

病院から出たあと、母は僕にお礼を言った。

「けんしろうがあそこでハッキリと言っていなかったら、開頭手術するにしても経過観察だったとしても、後悔や不安が残ったかもしれない。私達の代わりに言ってくれてありがとう。」

母の顔はスッキリとしていた。父の表情も明るい。

「せっかく熊本来たし、なにか美味しい物食べようか!」と父。
「おいしいカレーが食べたい」と母。

いつもの風景が帰ってきた。

家族3人で過ごす日。あっという間の団欒。

そのあとはカレーを食べに行った。どうしても母はカレーが食べたかったらしい。

父が母をエスコート。

父が母をエスコート。

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ベイクドカレー。母は元気が出たのかこの量を一人で食べきった。

お腹いっぱいになったあとは熊本城へ。

震災で所々瓦が剥がれている。

震災で所々瓦が剥がれている。

震災の後を見つめる母。このあと熊本城をぐるっとまわった。元気。

震災の後を見つめる母。このあと熊本城をぐるっとまわった。元気。

そして母と僕でアイスを食べた。

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抹茶アイス。

お茶ソフトクリーム。

最後は阿蘇くまもと空港まで家族3人で一緒に移動して、僕は飛行機に乗って大阪に帰った。

母も父も、僕に「さっさと彼女つくれ」と小言を言えるまで気持ちが回復していた。

自分の決断が合っているか間違っているか?でも覚悟は出来た。

その日の夜、母とメールのやり取りをした。

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母もやっと安心できたようで、帰りの表情はホッとしていた。

悩みが吹っ切れたようだった。

母が死ぬかもしれない。

そんなとき、みんなはどんな判断をするのだろう。

今、母は生きている。

でも明日、頭の動脈瘤が破裂して死ぬかもしれない。

僕はその時、今日の判断を後悔するだろうか?

いや、僕は自分の判断を後悔しないだろう。

絶対に。

父と電話を終えた時、「どんな結果も覚悟を決めて判断に責任を負う」と誓った。

母の命も、その責任も、僕は背負う。

でも、僕は母がこれからも無事に過ごせるよう祈っている。

こまめに実家に帰らないとね(^^)

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